2025年8月末、厚生労働省から2026年度(令和8年度)の予算概算要求が発表されました。この概算要求には、来年度の助成金制度の方向性が示されており、中小企業の皆様にとって非常に重要な情報が多く含まれています。
2026年度概算要求をみると、政府は「賃上げ」「人への投資(人材育成・リスキリング)」「人手不足対策」の三本柱を引き続き重視しており、助成金もこれらを後押しする形で予算配分・制度見直しが進んでいます。中小企業向けの「業務改善」「働き方改革」「人材育成」系の助成金が重点的に拡充される見込みで、制度の早期把握と社内制度(賃金・人事・教育)の整備が活用成否の鍵になります。
賃上げ支援助成金パッケージの構造
2026年度の助成金施策は、「賃上げ支援助成金パッケージ」として体系化されています。このパッケージは大きく分けて、生産性向上への支援と非正規雇用労働者の処遇改善、そしてより高い処遇への労働移動支援という三つの柱で構成されています。
生産性向上支援では、設備投資や人への投資を通じて企業の収益力を高め、それを賃上げにつなげることを目指しています。非正規雇用労働者の処遇改善では、正社員化の促進や賃金規定の改正支援などが盛り込まれています。さらに、より高い処遇を求める労働者の移動を円滑にするための支援も強化されており、労働市場全体の活性化が図られています。
生産性向上を支援する助成金の拡充
<業務改善助成金の大幅拡充>
業務改善助成金は、2026年度概算要求額が35億円と、前年度当初予算の15億円から20億円も増額されています。さらに、2024年度補正予算では297億円という大規模な予算が計上されたことから、実質的な予算規模は大幅に拡大しています。この助成金は、中小企業が生産性向上のための設備投資などを行い、事業場内で最も低い賃金を一定額以上引き上げた場合に、その設備投資費用の一部を助成するものです。最低賃金の引き上げが続く中、中小企業の負担軽減と生産性向上の両立を支援する重要な制度となっています。2026年度は、助成率の区分を従来の4コース制から3コース制に再編する見直しが検討されています。
<働き方改革推進支援助成金の継続強化>
働き方改革推進支援助成金は、労働時間の短縮や年次有給休暇の取得促進など、働き方改革に取り組む中小企業を支援する制度です。2026年度概算要求額は101億円で、引き続き重点施策として位置づけられています。この助成金には複数のコースが設けられており、業種別課題対応コースでは、建設業、自動車運転の業務、医療に従事する医師、砂糖製造業、その他長時間労働が認められる業種を対象に、時間外労働の削減や休日の増加など、業種特有の課題に対応した取り組みを支援します。労働時間短縮・年休促進支援コースでは、労働時間の削減や年次有給休暇の取得促進に取り組む中小企業に対して助成が行われます。勤務間インターバル導入コースでは、9時間以上の勤務間インターバル制度を導入した企業に対して支援が行われます。賃金引き上げの加算制度も設けられており、賃金を引き上げた労働者数および企業規模に応じて助成金の上限額が加算されます。具体的には、3%以上の引き上げで6万円から60万円、5%以上で24万円から480万円、7%以上で36万円から720万円が最大で加算される仕組みです。また、1か月45時間超60時間以内の時間外労働に対する割増賃金率を50%以上に引き上げた場合には、助成金の上限額に100万円が加算される予定です。
非正規雇用労働者の処遇改善支援
<キャリアアップ助成金の拡充と情報開示加算の新設>
キャリアアップ助成金は、非正規雇用労働者の正社員化や処遇改善を支援する助成金です。2026年度は554億円という大規模な予算が概算要求されており、制度の拡充が図られています。大きな変更点としては、非正規雇用労働者の情報開示加算の新設があります。この加算は、企業が非正規雇用労働者に関する情報を適切に開示した場合に、1事業所あたり20万円(中小企業以外は15万円)が追加支給されるものです。正社員化コースでは、通常の正社員転換制度を新たに規定し転換した場合に1事業所あたり20万円、勤務地限定・職務限定・短時間正社員制度を新たに規定し転換した場合に40万円が支給されます。非正規雇用労働者を正社員として雇用することは、人材の定着や育成の観点からも重要であり、この助成金を活用することで企業の人材戦略を強化することができます。
<両立支援等助成金による育児との両立支援強化>
仕事と育児の両立支援は、女性活躍推進や少子化対策の観点から、ますます重要性を増しています。両立支援等助成金は、育児休業の取得促進や職場復帰支援などを行う事業主を支援する制度になります。
2026年度の変更点は、育児休業中の新規雇用に関する助成の拡充です。従来、代替要員を雇用した期間が半年以上の場合に最大67.5万円が支給されていましたが、2026年度からは期間要件が1年以上に変更され、最大受給額も81万円に引き上げられる予定です。これにより長期的な視点での代替要員確保が支援されることになりますが、期間要件が厳しくなることから、申請のハードルは上がる可能性があります。計画的な人員配置と、育児休業取得者の復帰を見据えた体制整備が求められます。
リスキリング・人材育成支援の本格化
< 人材開発支援助成金の大幅拡充>
デジタル化やDX化などが急速に進む中、従業員のスキルアップやリスキリング(学び直し)の重要性が高まっています。人材開発支援助成金は、職業訓練を実施する事業主を支援する制度として、2026年度に533億円の予算が概算要求されています。
最大の変更点は、リスキリング支援コース受講企業への設備投資助成の新設です。この新設助成では、訓練で得た知識や技能を活用し生産性向上に繋がる機器・設備を購入した場合に助成が行われます。対象は中小企業のみで、助成額は購入費用の50%、上限は最大150万円となる予定です。受講者数に応じて上限が設定されるなど、実効性のある仕組みが検討されています。この設備投資助成の新設により、研修による人材育成と設備投資による生産性向上を一体的に進めることができるようになります。単に知識を学ぶだけでなく、それを実際の業務に活かすための環境整備まで支援されることで、より実効性の高い人材育成が可能となります。
より高い処遇への労働移動支援
<早期再就職支援等助成金による労働移動の円滑化>
早期再就職支援等助成金は、事業規模の縮小等により離職を余儀なくされた労働者の再就職支援を行う事業主を支援する制度です。2026年度は、雇入れ支援コースが9.5億円、中途採用拡大コースが10億円の予算で概算要求されています。雇入れ支援コースでは、離職を余儀なくされた労働者を早期に雇い入れ、賃金を上昇させた事業主に対して助成が行われます。雇入れ前の賃金と雇入れ時の賃金を比較して5%以上上昇させた場合に助成されるもので、労働移動を伴う賃上げを促進する狙いがあります。中途採用拡大コースでは、賃金上昇を伴う中途採用者の雇用拡大を図る事業主に対して助成が行われます。中途採用を拡大し、雇入れた中途採用者の賃金を雇入れ前の賃金と比較して5%以上上昇させた場合に助成されます。生産性の向上や会社全体の賃金の底上げに取り組む場合には、さらに加算措置が受けられる仕組みです。
まとめ
2026年度の概算要求を見ると、助成金は「賃上げ」「人的投資」「生産性向上」を三位一体で支援する方向へ明確にシフトしています。事業者にとっては、制度の最終決定を待つだけでなく、賃金制度・教育計画・業務改善計画を先んじて整備することが非常に重要です。概算要求は動向の“方向”を示す確度の高いシグナルです — 早めの準備で採択確率を高めましょう。
【参考資料】
・(労働基準局)「令和8年度概算要求の概要」
・(雇用環境・均等局)「令和8年度概算要求の概要」
・(厚生労働省)「令和8年度厚生労働省予算概算要求の主要事項」
・どの助成金が受給できるかチェック→助成金チェックシート
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